2021.01.29 号
2021.01.29 号
人によって、心の支えになるものは、全くそれぞれ異なるのでしょう。
まして、それが音楽だとしても、「ではどういう音楽か」となると、また人それぞれです。
Happy Tocoとして活動をする中で、自分たちにとって支えとなるもの、そして「いい音楽」というのはどういうものかが、よく分かってきた気がします。
それを共有しているメンバーだからこそ、Happy Tocoで演奏していると、心が満たされてくるのだということが、このところの限られたステージのたびに、あらためて気づかされました。
お客さまに、「いい音楽」をお届けしたい、というつよい思いはもちろんですが、くわえて、自分たち自身も、自分たちの心を守るために、信頼している大事なメンバーとの演奏をする時間を守っていかなければ、と思うこのごろです。
ところで、前号で「Happy TocoのHappy福袋」を旧正月のころにご用意する旨、お伝えしておりましたが、この情勢下、新たな集いのご提案をすることを控えることにいたします。
様子を見ながら、改めてご案内いたします。
2月7日のHappy Toco Liveも、関東などからのご常連のお客さまはお出かけになれないかもしれませんが、よろしければ宮城ご在住のお客さまは、どうぞお運びください。
客席はごくわずかにし、対策を講じて、お待ちしております。
展覧会の絵
『展覧会の絵』はムソルグスキーが、友人であった画家ガルトマンの死に直面して、彼の遺作展で見た何枚かの絵を題材にして作曲したと言われる。多岐にわたる曲想を持つ作品が並んでいる。
絵の印象を描いた10曲と、間にはさまれる6曲の同じテーマの変奏曲からなる作品を、ムソルグスキーは半年もかけずに(2か月ほどとされている)創り出した。
書簡の中で「煮えたぎっています、紙に綴ることができません」と書いているほど、彼の心の中に沸き起こったものは、どんなものだったのだろうか。
しかしこの曲は、ムソルグスキーの生前には出版されず、ゆえに一度も演奏されなかった。彼の没後に、同じ作曲家仲間のリムスキー=コルサコフが、遺稿の整理にあたってこの曲を発見し、改訂を加えて出版しなければ、この曲は永遠に葬られたかもしれない。
ムソルグスキーの書いた原典の楽譜は、多くの部分で未完であり、荒削りのものだったため、その後、多くの作曲家が補作し、今の形の組曲となっている。
特に、ラヴェルがオーケストラ版にアレンジしたことで、この組曲は、世界中で知られることになった。
ピアノ・ソロ版の原曲は、演奏者にとってかなり難易度の高いものだが、そもそも、ムソルグスキーがこの曲をピアノだけで演奏することを想定していたかどうか、甚だ疑問である。彼の他の作品にも見られるように、管弦楽曲を作るための習作だったと考えると、手法的にピアノで演奏することが困難なことも、非常に多くの色彩が曲調として盛り込まれていることも納得がいくように思える。
ムソルグスキー自身が、この曲の完成版と思える管弦楽曲に取り組まなかったことで、その後、多くの音楽家によるさまざまな改訂や編曲が施されることになった。その有り様こそが、この曲に秘められた大きな魅力なのかもしれない。
事実、私自身も学生時代から、この曲をいつかアレンジしたいという思いを持っていた。
エマーソン・レイク・パーマーや冨田勲といった先駆者もいたが、自分なりのアレンジの構想があった。
全曲ではないながらも、2011年にHappy Tocoでレコーディングをした『展覧会の絵』は、自分がムソルグスキーの音楽から受けた印象をもって、より一曲ごとに細かく色調を掘り下げ、ふさわしいリズムやサウンドで表現できたのでは、と自負している。
じつは、来る2月7日のライヴにおいては、CDでは取り上げなかった曲も含めて、この組曲の全曲を演奏すべく、編曲と練習に取り組んでいる。
お披露目できることを願っている。
(光裕)
新しい扉
人の価値観というものは、その人が築いたもののようでいて、育った環境であったり、その人を取り囲んだ人たちの種類であったり、いろいろなものが作用して、形づくられていくのかもしれません。
「好きな音楽」も、みずからの感性にほんとうに響いたものがそうなるかたもいれば、周囲に合わせる人もいるでしょうし、あるいは学校や社会が用意した枠の中で選択する人もいるでしょう。
Happy Tocoのお客さまは、クラシックもジャズもロックもさまざま聴いたうえで、さらに新たな味わいを楽しみにしてくださるかたが多いのでは、と感じます。
とくに、榊原光裕アレンジが、音楽の物語に奥行きを広げてくれるさまを、期待してくださっていることと思います。
これは長年継続している講座でも心がけていることですが、おはなしした切り口や、奏でたサウンドが、お客さまにとっての「新しい扉」となって、音楽観にも人生にも、いっそう広がりが生まれますように、と願っております。
2月7日のLiveでも、榊原光裕のアレンジ、Happy Tocoのサウンドをご堪能ください。
(聡子)